iTunesではアルバムを買ってもらいたい

オンラインミュージックストアとしては間違いなくデフォルトの存在と化したiTunes。日本においてはモバイル着うたのシェアが依然高いものですが、ああいう「質の悪いものを高額で子供に売りつける」ビジネスモデルは現時点での子供が成長した暁には次の世代の子供には到底受け入れられないものでしょうから乱暴ですが僕は無視します。なので、少なくともここでは「ミュージックダウンロードサービスと言えばiTunes」と言い切ることにします。

iTunes Music Store

言わずと知れたサービスですが、一応念のため、まとめておきます。
2003年に米国で突如開始されたiTunes Music Store、日本では2005年8月4日にサービススタートしました。それまでにもCDをPCに取り込んでiPodに格納して外でも自分のミュージックライブラリーを楽しむという行動スタイルは広まっていましたが、(合法的には)一回CDを手にしてPCのiTunesに取り込むという作業が必要でした。だから、自分が買ったCDか、友達から借りたCDか、日本だったらTSUTAYAで借りてきたCDか、CDを一回手に取れる状態にない曲は聴けなかった。それが、インターネット上の巨大ミュージックストアiTunesから直接楽曲を購入して自動的に自分のミュージックライブラリーに追加されるようになった。友達が持っていないCDでも近所の新星堂に売っていないCDでも即購入できるようになった。しかもお店は24時間365日いつでもオープン。レビューサイトや友達のブログに掲載されたリンクをクリックすれば一発でお店まで連れて行ってもらえるという。最高。

アーティスト側のメリット

これを立場逆にして見ると。

ミュージシャン側、レコードレーベル側からすると、新星堂やタワーレコードに並べなくても自らの楽曲を発表して販売することができるということになります。

実はCDを全国のCDショップに並べて販売するという商流は結構なリスクとコストがかかる。

・CDの製造コスト
・CDショップからの発注を取りまとめて全国に発送してくれるディストリビューターへのコスト
・販売店で目立たせるための広報コスト
・そして、一定期間内に売り切れなかったCDに発生する返品のリスク

こういったものが、楽曲の販売に際してCDには必要だけどiTunesでは不要になるコスト。めっちゃ金かかりますよ。

しかも、日本人アーティストのCDをアメリカでリリースとか言った日には上述のコストと労力はほぼ実現不可能と言えるレベルに跳ね上がります。

そもそもiTunesでの楽曲販売は、日本のストアに並べるためにもアメリカにあるApple社のサーバーに楽曲を納品する必要があるくらいですから、アメリカで販売するにもヨーロッパで販売するにも、設定ボタンをワンクリック。これだけ(著作権的な詳細は割愛しています)。あとは自分のファンであれば確実にアクセスしてくれるオフィシャルサイトやブログで販売している旨を掲載してリンク貼るだけという。最高。

ちょっとテクニカルタームですが、こういうことを限界費用のゼロ化と言います。

とかいう感じでiTunesの出現というのはユーザーの生活にも音楽業界のビジネスモデルにも双方にインパクトを与える「革命」なのでした。実際、2005年の8月3日はスタッフと社長とキューバリバーで乾杯しました。

社会的にも沸き立ちましたよね。2005年8月4日のことを記憶されている方もたくさんいらっしゃるかと思います。

本当はWMAというマイクロソフト社規格に則った音楽ストアや海外ではMP3ファイルを販売するストアなども存在していたのですが、再生できるデバイスの互換性の問題や、有名アーティストの楽曲が販売されていないという問題や、結構PCに詳しい人でなければダウンロードの方法が難しいという問題や、課金フローに手順多すぎでお金を払う前に諦められていたという問題とか色々からみ合ってあまり流行っているお店がありませんでした。なので、iTunesが一瞬で事実上唯一のオンラインミュージックストアになりました。以上が、iTunes Music Storeのまとめ。

iTunesでのビジネス実情

ここで、なんと話が反転するのですが、実際のビジネスとして話を致しますと、「iTunesで楽曲をリリースしても飯は食えない」です。

・クレジットカード決済なので、大人しかアクセスできない
・iTunesでさえも難しいという人が結構いた
・全曲30秒視聴できるのでそれで良いやという人まで実際いた

こういったところが作用して、さすがのiTunesですが家族も友達もみんなが音楽を買えるお店ではなかった。

そして、

・日曜に家族でTSUTAYA行くからCD借りれば良いや

という(特に地方都市における)日本独自のライフスタイルを打破することが出来ていません。iTunes(JP)の最大のライバルはNapsterでもモーラでもBEATPORTでもなくTSUTAYAです。アメリカApple本社もこれには多少驚いていることと思います。僕の個人的意見はレンタルレコードを違法化すべきというものですが、これについてはまた改めて書きます。怖いので書かないかも知れません。ハイロックさんが許してくれればFRESH TVスペアカSPで話してみたいとは思います。

iTunesでは飯は食えない理由、その最大の一点は、

・単曲購入できる

という事実です。この手軽さがiTunesの爆発的人気を支えているものなのですが、レコードレーベルとして関わりを持ちますと商売上がったりです。商売としては、ですが。

2300円とか3000円とかで成立していた単価が一気に150円になるのですから、当たり前っちゃ当たり前。
なので、レーベルの真意としては「iTunesは外すことの出来ない広告メディアであり、依然として商売はCDで」という感じです。広告なのにお金が入ってくるというべらぼうな話ですが、実際クライアントとミーティングを毎日行っていても認識はこんな感じです。

ここでやっと今回のポストの本題に入るのですが、ニュースなどでも扱われておりますのでご存知かと思いますが、「商売はCDで」が機能しなくなっているのが「←イマココ」。

楽曲はプロモーションツールで商売はライブでやればエエやん。てな意見がもはや主流を占めようかとしている感もあります。

ですが、これはもう僕の気持ちの問題なのですが、レコーディング音源とライブは絶対に別物だし、両方とも商売にならないといけないと思っています。

ここの気持ちの問題も、詳しく書くのは別のエントリーにします。すみませんが、ここではこの気持の問題を前提として、これを成立させるためのことを書きたいと思います。

お金の事情を整理しますと、上述した限界費用のゼロ化によって、iTunesでもユーザーに「アルバム購入」して頂ければCDと同様(あるいはそれ以上)の対価がレーベルに支払われます。

なので、iTunesでもアルバムはアルバムとして買って頂ければ商売として成立するのです。
だとしたら、なんとしてもiTunesでアルバム購入してもらわねばなりません。

アルバム販売の工夫

でも、いかんせんCD販売の落ち込みが急激すぎて、iTunesで商売を成立させるための方策もアイデアもノウハウも確立されていません「←イマココ」。

そうそう上手く頭が切り替えられてないのですよね。

なので、現時点でのアイデアをここに備忘録として列記しておこうというのが本題。前置きナガ。。

それではJUST DO IT行ってみましょう。

☆アルバム購入限定トラックを付ける
これは結構定着しているアイデアです。アルバムまるごと購入しないと入手できないトラックが存在すればアルバムで買っとこかと思ってくれる人は増えます。

iTunesでは、一曲の再生分数が10分を超えると自動的に「単曲購入が不可」という設定になります。 なので、もとから10分以上の楽曲が含まれていない作品の場合はミックスCDのようにDJミックスを長尺トラックとしてつけてみたりされます。
最近では10分を超えない楽曲でも、iTunes限定ボーナストラックであればある程度レーベルの裁量で実施できるようになりました。

☆アルバムで聞かないと機能しない作品にする
例えば、僕の方で制作を担当させて頂いている Nike+ オリジナル作品。これは大体45分間見当のランニングBGMとして機能させることが作品のテーマになっていますので、アルバム購入されるケースがほとんどです。

ただ、大前提としてNikeによるオファーがあって初めて企画がスタートする事業ですので、みんなが出来る方策ではありません。

が、アルバムで聴く意味、アルバムならではの機能、これらが明確に成立していればユーザーもアルバム購入してくれることの実証になっています。

☆アルバム価格を安くする
これは「iTunesで商売を成立させる」ことには若干反するので僕はあまり好きではないのですが、今流行の手法です。

新人の売り出し、既発楽曲のコンピレーションなどに活用されています。
iTunesの基本仕様は、「1曲150円 / アルバム1500円」。10曲に満たないアルバムは150円×曲数でアルバム価格が算出されます。7曲入りなら1050円、4曲入りなら600円、とかです。

ですが、この価格はあくまでも基本仕様で、レーベルの判断によって、安くすることが可能なのです。
なので、新人のファーストアルバムが13曲入りで900円、とか50曲入りコンピレーションが1200円、という商品がリリースされることもあります。
売れないくらいだったら一人でも多くの人に買って頂こうという手法です。新人だったらこれで名前が売れれば成功だし、コンピだったらレーベル自身のプロモーションとして過去カタログの掘り起こしに繋がれば成功です。

ただ、これは正真正銘のチキンレースというか焦土作戦というかに繋がる諸刃の剣だと思っているので、別アイデアがある限りはそちらを優先して欲しいです。

僕自身が一番効果を望んでいて、かつ僕自身ユーザーとしても是非欲しいと思っている企画は、

☆iTunes限定のアーティストオーディオコメンタリーがアルバム購入特典として付いている

という手法です。
全曲解説でも良いですし、製作過程の振り返り、もしかするとゲストを招いてのトークでも良いかも知れません。

なんでこのアルバムなのか、をアーティスト自ら語ってくれたらファンにとっては単純に嬉しいし、これがきっかけでアーティスト自身に対する想いが強くなって息の長いファンになってくれる可能性も高まる。

iTunesの名物企画で「iTunes Originals」という企画アルバムがあります。
これは大物アーティストがiTunes限定のベスト盤をリリースし、全曲の合間にコメントを挿入しているというもの。やはりiTunes Originalsはやっぱり圧倒的にアルバムで売れます。
が、先ほどの Nike+ 同様、iTunesからのオファーがあって初めてスタートする企画なので誰でもリリースできるものではありません。

それでも、iTunes Originalsが売れている実証はある訳ですし、そこにはアーティスト自身のコメントがあるから嬉しいと思われている事情は間違いなく含まれています。
で、一番目に挙げたアルバム購入限定トラックの転用である程度自由に企画できますし、普通は限定楽曲をつけるより手軽に実施できるのではないかと思います。

ツイッターでWigglingさんに指摘もされましたが、もちろんアーティストと作品によります。
つまみ食いされても仕方のない楽曲が多すぎるというのがWigglingさんのお考え。僕も同感できるところはありますが、つまみ食いされても仕方ない作品はたとえCDであってもアルバム通して聴いてもらえないのではないかな。

だったら、暴論ですが、その作品はナニやっても仕方ないということになりませんか。

アルバムで聴いてもらいたい作品だからこそ、アルバムで買ってもらって商売も成立させる。そのための工夫に努めるというのがライツスケールのドミンゴとしてのマニフェストかと考えております。

追記:
実は、昨夜のiPad発表をずっと見ておりまして、思いっきり感動しているのだけど様々な考えが錯綜し過ぎて、、、

このポスト、iPad所感を残そうとして書き始めたんだけど、いつの間にやらiTunesのまとめになったというなんともかんともポテチンなポストなのでした。

追記2:
このポストもiPhoneテキストエディットアプリ WriteRoomにて書きました。WriteRoomについてもガッチリ紹介せねばだなー

追記3:
アカウントが似ているという経緯で相互フォローをさせて頂きはじめた domingo70 さんの発言でリンクされていた二つの座談会。コントラストが強すぎる!